読解力向上プログラム分析検討
2005.12発表
さいたま教育文化研究所国語教育研究委員会 森 慎
(下段の・は文部科学省分析 ○は文部科学省の方向 *は私の見解)
1 はじめに
・ 「読解力」の得点については~大きな課題が示された
・ 現行学習指導要領がねらいとしている「生きる力」「確かな学力」と同じ方向にある。
・ 学習指導要領国語では、言語の教育としての立場の重視、文学的な文章の詳細な読解
に偏りがちだった指導を改め、自分の考えを持ち論理的に意見を述べる能力、目的や
場面に応じて適切に表現する能力、目的に応じて的確に読み取る能力や読書に親しむ
態度の育成~これらはPISA型「読解力」と相通ずる。
* 国語の時間を小学校では1学年分削り、中学校では週1時間分削った反省がまった
くない。
* 「三つの達成目標読む書く検証テスト」では、文学の問題は一問もない。これでは
「偏りの改めでなく削る」である。
2 PISA型読解力の分析
・ 読解プロセスでは、「テキストの解釈」「熟考・評価」に、出題形式では自由記述
(論述)に課題があった。
* 出題形式では、求答や短答にも問題あり。多肢選択複合や多肢選択は良いのは、「三
つの達成目標読む書く検証テスト」分析結果でもわかる。
○教科国語だけでなく、各教科や総合的な学習の時間等を通じ、「考える力」を中核とし
て、「読む力」「書く力」を総合的に高めていくことが重要。また読書習慣のある子ほど
PISA型読解力が高い傾向があり、読書活動で言語の知識経験を広めることも大事。
3 改善の具体的な方向-3つの重点目標
[目標1]
○テキストを理解評価しながら読む力を高める取り組みの充実
「テキストの内容や筆者の意図を[解釈]する。また内容や形式や表現、信頼性や客観
性、引用や数値の正確性、論理的な思考の確かさなどを[理解・評価]したり、自分の知
識や経験と関連づけて建設的に批判したりする読み(クリティカル・リーディング)を充
実する」
* メディア・リテラシーの教育や批判読みとして主張してきた内容である。
[目標2]
○テキストに基づいて自分の考えを書く力を高める取組の充実
「読解に当たっては、単に読んだり理解するだけでなく、テキストを利用して自分の考
えを書くことが求められる」「テキストの内容を要約させたり、再構成したり、自分の知
識や経験と関連付け意味付けたり、自分の意見を書いたり、論じたりする機会を設ける」
* 高校、大学受験に対応した学力テストや一斉学力テストは、採点しやすい問題に流れ
る傾向にある。したがって全国一斉学力テストは、この流れと逆行する。
[目標3]
○様々な文章や資料を読む機会や、 自分の意見を述べたり書いたりする機会の充実
「その(読書活動の)際、文学的な文章だけでなく、新聞や科学雑誌なども含め、幅広
い範疇の読み物に親しめるようガイダンスを充実する」「自分の経験や心情を叙述するだ
けでなく、目的や条件を明確にして自分なりの意見を書いたりするなどの機会を意図的に
作っていく」
* 文学教材でも説明文教材でも、教師や教師間の深い教材分析が必要。また、授業にお
いては、読むことに書くことを取り入れたり、まとめの感想(鑑賞・批評)など子供たち
の主体的な読みを作ることや読み合い話し合いが大事である。文学の形式的な読解や発問
を連発する授業や言語操作活動だけを提唱したのは文部科学省やそれに追随する学者たち
ではないか。
4 文部科学省や教育委員会の取組-5つの重点戦略
[戦略1]学習指導要領の見直し
○見直しに当たって~PISA型「読解力」の結果分析~(3つの重点目標)等についても検
討材料として提供
*どのように反映されるか注目する
[戦略2]授業の改善・教員研修の充実
○社会、数学、理科、総合的な学習の時間など教科横断的な取組の充実を図る。
○「読解力向上に関する指導資料」の配布。指導事例集作成予定。
○研修内容の改善
*勤務時間に教材研究のための教師の研修時間の確保を。生活科や総合的な学習の時間で
も人手が足りない。トップダウンではダメ。
[戦略3]学力調査の活用・改善等
○PISA調査の公開問題や類似した~問題等を学校現場で積極的に活用する。
○全国的な学力調査については、単に知識や技能だけでなく、実生活の様々な場面などに
活用するために必要な思考力・判断力・表現力などを含め幅広い学力を測定する。大学や
高校の入試選抜試験問題についてもその方向を周知する。
*PISA型読解力テストのまねでは同じ結果になる。授業も含め教師の独創力こそがかぎに
なる。
*ナショナルテスト(全国悉皆テスト)では、内容改善しても弊害の方が多い。
指導法改善には抽出にすべき。
[戦略4]読書活動の充実
○学校図書館の充実を図る。学校図書館は、学校教育の中核的な役割を担うもの。蔵書の
充実、司書教諭の養成・配置や学校図書担当職員の配置
*フィンランドのように地域に図書館を充実させることが先。
[戦略5]読解力向上委員会(仮称)
○「「読解力」を支える基礎力」育成するため~学校、PTA、図書館協会、全国学校図書
館協議会、日本新聞協会、日本雑誌協会など~関連団体等に~働きかける。
○趣旨に賛同する各界の有識者などが参画した「読解力向上委員会(仮称)」を、文部科
学省が中心となって新たに設ける。
*これもボトムアップのやり方がだいじ。つまり、条件整備も含めて全国の取組を交流す
ること。
文部科学省 「読解力向上プラン」を批判検討する
さいたま教育文化研究所国語研究委員会 森 慎
これは2003年PISA2003年「読解力」調査で、日本がOECD41か国の中で8位から14位に
転落したことの分析検討した結果をもとに出されたものである。
日本の子ども(15歳)は、読解プロセスでは、「テキストの解釈」や「熟考・評価」が、
出題形式では自由記述に課題があったと分析している。そのことについての異議はない。
しかし、生活格差が学力格差になり、レベル1以下がOECD平均より下回っている事実や20
02年に「総合的な学習の時間」の導入で、国語の時間が大幅に削られたこと、知識の定着
抜きに活動主義が横行したことが要因であるとの分析はされていない。むしろPISA型読解
力は現行学習指導要領の「生きる力」「確かな学力」と同じ方向だと主張しており、その
ことを理解していない現場がわるいと言っているようである。 改善の具体的な方向とし
て、三つの重点目標を挙げている。(説明は要約)
第一に、テキストを理解評価しながら読む力を高める。
内容や意図を解釈したり、形式・表現の正確さなど理解・評価したり、自分の知識や経験
と関連づけて建設的に批判したりするクリティカル・リーデングを充実する。
第二に、テキストに基づいて自分の考えを書く力を高める
テキストを利用し自分の考えを書いたり、要約や再構成したり、意味づけたり、意見や
論じたりする機会を設ける。
第三に、様々な文章や資料を読む機会や、 自分の意見を述べたり書いたりする機会の充実。
文学的文章だけでなく、新聞や科学雑誌なども含め、幅広い読み物に親しめるようガイ
ダンスの充実。自分の経験や心情を叙述するだけでなく、目的や条件を明確にして自分な
りの意見を書いたりする機会をつくる。
この三つの重点について考えてみたい。第一のクリティカル・リーデングであるが、す
でに民間研究団体の中でも「批判読み」「吟味読み」として行ってきていることであり、積
極的な意味がある。しかし「建設的な」は余計である。どんな批判も保障しながら、討論の
中で認識を深めれば良いことである。今日情報が氾濫し、子ども達が選択しにくい状況が
ある。
第二については、計画を進めれば進めるほど、大学の入試の多肢選択テストや全国悉皆テ
ストなどが矛盾が拡大してくるであろう。小論文や作文テストは減点法で採点されており、
結局自分の考えどころか、いかに減点されないような模範答案を作るのかの技術習得が行
われているからである。埼玉の「達成目標検証テスト」もおなじである。
第三については、読書活動の充実は賛成だが、担任しながらの片手間の司書教諭ではなく
専門的な司書の充実が望まれる。さらに地域の図書館の充実など条件整備も必要である。
授業においては、文学文や説明文を教える教師の集団による教材分析や指導の手立てがあ
って、しかも子ども達に読むことと書くことを主体的に行い、読み合い話し合い機会を十
分に取ることが大事である。PISA型読解力の向上をめざすのは良いが、ひとりひとりの発
達の可能性を探りながら、子どもや親と直接に接する教師の自主性をもっと充実させるこ
とを保障しなければならない。とうきょうとのように学力テストで平均点を公表して、学
校間や学級間で競い合わせる成果主義の教育を進めている現状では、絵に描いたもちにす
ぎないとはっきり言える。
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